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スポーツ選手とリハビリ : 「手術前より強くなる」という説
メジャーリーグでは、トミー・ジョン手術を必ずしも悲観的にはとらえていないようで、「手術をすると腱が強くなり、球速が2~3キロ速くなる」といった楽観的な見方もあるそうです。
計3回この手術を受けている館山投手も、移植した腱がパフォーマンスに与える影響について語っています※。2回目の手術は大腿骨内側の筋肉から、3回目の手術は左手からそれぞれ腱をとった館山投手。3回目の方が調子が良いのを実感しており、その差を移植した腱の種類の違いによるものと感じているといいます。 しかしこういった事象は医学的に証明されてはいません。
※右腕に7度メスを入れ復活 ヤクルト館山語るリハビリの辛苦(日刊ゲンダイ)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/162010
スポーツ選手とリハビリ : 長期のリハビリ期間に復活の秘密はあるか?
長期のリハビリには、競技から離れる期間が長くなるという負の側面があるのは確かです。しかし、その経験は後の選手生活に良い影響を与えてくれることもあるようです。実際、復活を遂げたアスリートがリハビリ期間を経て、ケガをする前以上に活躍するケースもあります。なぜでしょうか?
1)基礎から体を鍛え直せる
復帰までの期間中、選手は徹底的に体を鍛えることができます。競技そのものの練習(館山投手の場合は野球)は減りますが、その分、走り込んだり、ウエイトトレーニングを行ったり、柔軟性の向上を図ったりと、これまで十分にできなかった鍛錬にたっぷり時間をかけられます。
2)ケガにつながる根本要因を改善できる
ケガをするのには理由があります。肘を痛めた場合、投球フォームの中に肘に負担がかかる要因があったと考えられます。リハビリでは再発を防ぐため、投球フォームを科学的に解析し、肘に負担のかからない合理的なフォームづくりが行われます。このことが復帰後のパフォーマンス向上につながることがあります。
3)疲労がぬける
試合と練習を繰り返す競技生活は、たとえ休養をとっていたとしても疲労が蓄積していくものです。また、競技の中ではいつも同じような体の使い方をするので、特定の部位に負担がかかりやすくなります。リハビリ期間中はこうした状況から解放され、蓄積した疲労を解消することができます。
4)自分の体を見つめ直す時間がある
館山投手はある時期、3週間単位で綿密なトレーニング計画を立てていたといいます。ランニング、ウエイトトレーニング、キャッチボール…すべての継続時間や強度について細かく計画を立てます。そして、実際のパフォーマンスの変化をフィードバックし、「上手くいっていない」と感じたら計画をその都度調整。このようなトレーニングを通して、自分のコンディションを冷静に見つめ、計画を立て直しながら実行する習慣が作られます。
5)逆境に強くなり、ふっきれている
その道に秀でている人だけがプロになれます。投手であれば、子どもの頃から投げることに関しては誰よりも得意だったはずです。ところが、手術を行うと一番得意な「投げること」ができなくなります。最も得意なものを一度失い、再び自分の努力でそれを取り戻した人は逆境に強くなるでしょう。よく、「優等生ほど挫折に弱い」といわれますが、いわばそれとは正反対のマインドがつくられます。
手術を繰り返し行った館山投手は、「次に靭帯が切れたらもう終わり」と話したといいます。いつ終わってもおかしくない可能性を受け入れて練習や試合に打ち込んでいるということです。このように、ふっきれている人は常に覚悟を持ち、臆病でもなく、無謀でもないバランス感覚で最善をつくすことができます。
ケガからの復活は、手術の成功、フィジカルの充実等も重要ですが、メンタルの強さがなければ実現しないのでしょう。とりわけ長期のリハビリにおいては覚悟と自制心が求められます。リハビリという長期戦を戦い抜くメンタルの強さで復活を果たした館山投手の今後の活躍に期待したいと思います。
執筆:斉藤雅幸(Mocosuku編集部)
監修:坂本 忍(医学博士)
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