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体験記憶(エピソード記憶)と感情
丸暗記式の意味記憶と違って、体験記憶は「その人が経験したできごと」についての記憶です。
たとえば、“海とは陸地以外の部分で、海水に満たされ…”といったコトバの定義を覚えているのが「意味記憶」ですが、体験記憶で海といえば、Aさんは東北大震災のときの津波を思い出すとか、Bさんはエメラルドグリーンのロマンティックな沖縄の海が目に浮かぶといった、体験を通した記憶を指しています。
そして、震災の津波は「怖かった」とか、沖縄の海は「素敵だった」というように、その時々の感情が強かったり大きかったりするほど、印象深く鮮やかな記憶として、保持されたり想起されたりすることがわかっています。
ちなみに、こうした働きを促進するのは、脳科学では大脳辺縁系にある「偏桃体(へんとうたい)」や「海馬」だと考えられています。
つまり、感情(情動)と記憶との関係性は男女差というよりは、脳の働きがどのように習慣的に使われているかということに影響されているといえるのではないでしょうか。
それでは、男女の差とは?
脳科学的な立場からは、「女性脳」は女性に固有というよりは、習慣によって形成されてきた機能的特徴ということができるでしょう。
黒川さんご自身も「脳機能」であると表現されています。
また、共感性も「ゴール指向問題解決型」の成人男性にはほとんど体験されなくなっているようですが、少なくとも赤ん坊や幼児の頃は男女ともに「そうだ、そうだ」という共感性によって、生活や文化を取り入れたり人間関係をつくったりしてきたはずです。
小さいころから理屈や合理性だけで世界を構築してきたわけではないでしょう。
さらに、昨今注目されているLGBTのような性的マイノリティの生き方もありますが、男性的な女性、女性的な男性など、ジェンダーの境界はかつてよりもあいまいになってきています。
黒川さんの提言は、非常に精緻とはいえロボットのような機械を作るためのモデルから得たコンセプトです。
ですから、実際に脳の中がそのような構造になっているというよりは、「女性脳」的なイメージを持って男女の仲を見つめ直してみてはどうか…という問題提起として捉えることができると思います。
「女性脳」は、男性が女性を理解し、女性といかに円満な関係を築いていくか、という問いに基づいた提起といえます。
男女が対等に共存していく社会にあっては、当然のことながら男性が女性を支配するのではなく、男性と女性が互いに理解し合う、その理解度の深さが社会の成熟度につながっていきます。
そういう意味で、「女性脳」の考え方も傾聴に値すると思われます。
男性諸氏は一度、共感をすることで女性のネガティブトリガーをポジティブトリガーに変換して、そこに何が生まれるのか(あるいは何が壊れるのか)を体験してみてはいかがでしょうか。
【参考】
・黒川伊保子編『妻のトリセツ』(講談社+α新書 2018年)
・黒川伊保子『女の機嫌の直し方』(集英社インターナショナル新書 2017年)
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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