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けがと唾液 :消毒液はむしろ逆効果?
かつては、傷を作ってしまったら、その部位にバイ菌が入らないようにと、消毒液を塗ることが一般的でした。しかし、消毒液の殺菌力は、細菌に有効なだけでなく、からだの細胞全般にも作用してしまい、傷を治すために必要な細胞も殺してしまいます。また、傷の痛みも増強させてしまいます。かといって、消毒液を希釈させて使用すると、傷を治癒させる重要な繊維芽細胞や上皮細胞などを殺してしまいますが、肝心の細菌は生き残るということがおきてしまい、消毒液はむしろ害があるといわれています。
現在は、傷口を流水で洗い流して、異物を除去し、湿潤療法(モイストヒーリング)という方法を行います。傷部分は、洗った後、乾かさないようにラップや市販のモイストヒーリング用絆創膏を貼ります。痛みも軽減し、傷が早く治り、傷あとも残りにくくなります。
福岡のある小学校では、保健師室に消毒液を置かないことにしたそうですが、「今まで使ってきて治ってきたのだから、今更、消毒をやめる必要はない」と異議を唱える外科医も一部にいるようで「消毒廃止」ということには至っていません。
けがと唾液 :唾をつけると治るってホント?
唾をつけると治るといういい伝えには、賛否両論あるようです。
唾をつけるのは「危険」という意見は、口の中には、雑菌が非常に多い、虫歯や歯周病は、雑菌から引き起こされるものなので、傷口に唾をつけて安心というわけには、とてもいかないというものです。
一方、効果があるという研究発表をしたのは、松本歯科大学の研究グループで、米科学誌に論文が掲載されたそうです。口のなかに傷ができると、唾液に含まれるたんぱく質の一種「ヒスタチン」が別のタンパク質と結合して、歯肉細胞を増殖させて傷をふさぐことができることがわかった、というものです。「傷口に唾をつければ治りが早い」といういい伝えは本当、ということを解き明かすもので、歯肉細胞に唾に含まれるヒスタチンを加え、観察をすると、歯肉細胞内にあって、熱などのストレスにさらされた際、歯肉細胞を保護する働きをする「熱ショックタンパク質」とヒスタチンが結合し、歯肉細胞が増殖することが確認されたそうです。
熱ショックタンパク質は全身の細胞にあります。ヒスタチンは、抗菌だけでなく、傷の治りを早める働きがあるのではないかという仮説に基づいて研究がなされ、上記の結果なので、口腔内の傷の治療だけでなく、再生医療分野にも広がる可能性があると、期待が膨らんでいるそうです。
「唾をつけておく」という方法は、現段階では明確にはわかっていません。傷を作ってしまったら、まずは水道水でよく洗い流す、というのが一番いいようです。
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー
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