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B型慢性肝炎の治療薬 :感染者のごく一部が「持続感染」に
B型肝炎についての基本的な確認をしておきましょう。
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスが血液・体液を介して感染する病気です。肝炎が悪化すると肝硬変になり、肝硬変が悪化すると肝がんになります。ただし、B型肝炎からこのように悪化するのはごく一部に限られます。
B型肝炎ウイルスに感染しても症状が出なかったり、気づかない間に排除されていたりと、ほとんどの人は健康人キャリアとなります。思春期以降の感染は慢性感染者との性的接触や、入れ墨、ピアスの穴開け、カミソリを介して感染者の血液に接触することによるものです。しかし、こうした場合、一過性の急性肝炎を起こすことはあっても慢性化することは稀です。
一方、母子間感染の場合は、約9割の人が健康人キャリアとなりますが、残りの約1割の人は生涯にわたり感染が継続する「持続感染」と呼ばれる状態になります。慢性B型肝炎の継続的な治療が必要になるのは持続感染の人たちです。
B型慢性肝炎の治療薬 :効果的だが継続的な服用が必要な核酸アナログ製剤
B型肝炎の治療においては、35歳程度までの若年者または軽い肝炎の人に対しては注射薬を、35才以上または肝炎の進行した人に対しては核酸アナログ製剤(内服薬)を用います。天津市で製造されていたテノゼットは、代表的な核酸アナログ製剤のひとつです。
核酸アナログ製剤は、B型肝炎ウイルスの増殖を抑えて肝炎を沈静化させることができます。薬を飲んでいる限り、ウイルス量は減少し、肝炎の進行が抑えられます。肝硬変で腹水がたまっているといった場合でも、核酸アナログ製剤の長期投与によって肝機能が改善すれば腹水も消失します。しかし、薬を中止すると肝炎が再燃してしまいます。C型肝炎の場合は抗ウイルス薬の内服治療でウイルスの完全排除を期待できるのに対し、B型肝炎の持続感染においてはウイルスを完全排除することはできません。そのため、治療を継続的に行う必要があるのです。
このように、その多くが母子間感染によって持続感染に至った人の内、35才以上または肝炎の進行した人は核酸アナログ製剤を継続的に服用することで肝炎の進行を抑える必要があり、服用を中止すれば肝炎が進行してしまいます。テノゼットを製造する天津市の工場の被災が日本のB型慢性肝炎治療に影響を与える理由は、それが、継続的に服用する必要のある核酸アナログ製剤の重要な供給元だからです。国内で同薬を服用している患者数は約7000人、在庫は8月末時点で約2か月分とされています。継続的な服用が中断することのないよう、薬の確保が求められています。
<参考>
B型肝炎薬、確保を要請=天津事故で製造停止受け、患者ら
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150916-00000178-jij-soci
テノゼット:耐性が出現しにくい第4の抗HBV薬
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/201405/536405.html
肝炎情報センター
http://www.kanen.ncgm.go.jp/forpatient_hbv.html
執筆:斉藤雅幸(Mocosuku編集部)
監修:岡本良平医師(東京医科歯科大学名誉教授)
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