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夢を見ていることの自覚
ノンレム睡眠とちがい、レム睡眠では脳が覚醒していますから、起きているときと寝ているときの中間の状態、ともいえます。
そこで、レム睡眠中に夢を見ている人に、「あなたは今、夢を見ていますよ」という信号を送る実験的研究がおこなわれました(1981年、アメリカのスタンフォード大学)。
実験は、眼球を大きく上下に振る、左右の手を開閉させてモールス信号を送る、という方法でした。
すると、脳波の測定結果から、外の刺激に対して確かに反応していることがわかりました。
しかし、本人が夢だと気づくには、目が覚めた後、昨夜見た夢を覚えていなければなりません。
これは心理療法の夢分析などでもいわれるところですが、夢日記をつけて自分の見た夢を思い出して記憶することが、一つの重要なプロセスとなりますので、この場合も、そうしたトレーニングが必要になります。
ここで、明晰夢(めいせきむ)についてご紹介しましょう。
堀忠雄(広島大学名誉教授:睡眠科学)氏によると、「これは夢だ」と気づいた夢を「明晰夢」というのだそうです。
明晰夢はレム睡眠時に見られ、当初、無自覚なまま、我を忘れて夢に見入っている状態を「前明晰夢」、夢の最中に覚醒水準が高くなり、夢だと自覚しながら夢を見ている状態を「明晰夢」と呼ぶとのこと。
つまり、先に述べたようなトレーニングを経て、前明晰夢が明晰夢に変換されていく可能性について研究途上であるということなのです。
「見たい夢を見たい」、という希望はかなうのか?
前項にて紹介した、スタンフォード大学の研究チームは、さらに、夢を整理して夢であることに気づく方法として「記憶による明晰夢誘導法」を開発しているといいます。
たとえば、レム睡眠時に夢を見ているとき、外からモールス信号を送るだけでなく、童謡を歌って聞かせます。
すると、夢を見ながらにして、覚醒時に歌を聴くのと同じように、右脳の活動が高まっていくという結果が得られたというのです。
さらには、暗算をさせる、などの方法も試みています。
このような試みの目的は、「夢はコントロールできるのか」という問いに基づいています。
そのうえで、こうした夢コントロール技術を、悪夢の治療に応用しました。
PTSDの患者さんは、よく悪夢に襲われています。
心的外傷を経験した危機的シーンの恐怖が、悪夢の内容を構成することが多いそうなのです。
そこで、1997年に、明晰夢誘導法を用いて、悪夢に悩まされているときに「今見ているのは夢だ」と自覚させる試みをおこないました。
1年後の追跡調査では、結果として5名の患者中、4名の症状が消失し、残り1名も、悪夢の程度と頻度が減少していたというのです。
同じような2006年の研究でも、明晰夢治療法によって悪夢をみる頻度を下げる効果はある、という結論を得ているようです。
しかし、わからないことも多く、今後も臨床研究を蓄積する必要がある、とされています。
明晰夢の科学的研究は、嫌な夢を見ているとき、その夢から解放される可能性を現実のものとしました。
ただし、見たい夢を自由に見ることができる、という段階まで研究は進んでいません…それほど単純な話ではなさそうです。
そうは言っても、夢をコントロールできるわけがない、というかつての常識も、さまざまな研究によりここまで進んできたのです。
いずれは過去の常識となり、見たい夢を見るのが当たり前である日がくるのを待ちましょう。
【参考】
・堀忠雄『眠りと夢のメカニズム』(サイエンス・アイ新書 2008年)
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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