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認知症になると脳に起こること
脳は大脳・小脳・脳幹からできていますが、おもに大脳が認知機能を担っているといわれます。
大脳全体を覆っている厚さ2~4mmの「大脳皮質」は140億個ほどの神経細胞からなるネットワークを作って、考えたり判断したり、記憶したり実行したりといった高度な認知機能を司っています。
この認知機能が低下して日常生活に支障をきたすようになるのが「認知症」の定義です。
神経細胞が変性して脳が委縮したり、特殊なたんぱく質のゴミが溜まったりしてしまうことがわかっています。
とくに「海馬」や「側頭葉」と呼ばれる部分の萎縮が著しくなるため、認知症の中核症状とされる「記憶障害」や「見当識障害」が起こると考えられています。
認知症は70種類にも及ぶといわれますが、なかでも「アルツハイマー型認知症」では海馬や海馬傍回(かいばぼうかい)と呼ばれる記憶を司る領域の萎縮が強くなり、記憶障害が顕著になるとされています。
加齢による「ど忘れ」と認知症の「もの忘れ」
認知症にならなくても、加齢による脳の老化から神経細胞の機能が低下して「ど忘れ」は起こります。
しかし、専門筋の見解では現在のところ加齢による「ど忘れ」と認知症の「もの忘れ」とは質が異なるといいます。
認知症のもの忘れには次のような特徴があります。
記銘力の低下
前述の記憶のプロセスのうち、認知症では「記銘力」が低下します。
ど忘れが「想起」の機能低下、つまり「思い出せない」状態なのに対して、認知症では「覚えられない」状態が強くなるということです。
全体記憶の障害
想起に関して、ど忘れでは「部分的」な記憶障害が特徴です。
一般に「エピソード記憶」「意味記憶」など陳述記憶は「ど忘れ」の対象となりやすく、運転の仕方や箸の使い方など非陳述記憶は記憶障害の対象になりにくいことが指摘されています。
いずれにしても、健常者のど忘れでは、人や物の名前だけを忘れてしまって「ほら、あれ!」などと言ってしまう部分的な記憶障害を特徴とします。
これに対して認知症ではできごとの全体を忘れてしまうこともしばしば起こります。
たとえば、朝ご飯に何を食べたのか全部を思い出せないのが「ど忘れ」なら、認知症の「もの忘れ」は朝ご飯を食べたこと自体を忘れる(覚えられない)といった具合です。
記憶の逆行性が喪失される
一般のど忘れは、遠い過去(遠隔記憶)を想起できなくなりがちです。
たとえば、何十年か前に結婚した日は晴れていたのか雨だったのか、その日、何人を式に招待したのかといった昔のことほど思い出しにくくなるというわけです。
これに対して認知症の記憶は、新しい近時記憶が記銘されないといわれます。
たった今のことを忘れてしまったように周囲の人は感じます。
そして、新しいことから順に忘れていって昔のことは案外よく覚えていると周囲を思わせます。
ですから、本人は今20歳で結婚式前日が今日なのだと思い込んでいたりします。
現在と過去という幅がなくなって、いわば時間が平面化したような状態になってしまいます。
加齢による「ど忘れ」に起こりがちな「エピソード記憶」の忘却。
時間の経過とともに、過去の記憶がセピア色に薄まっていくような経験は誰しもお持ちでしょう。
何度も思い出して誰かに話して聞かせる、ということを繰り返すと忘れにくくなるといわれます。
家族や友人などから「また同じことを言っているよ!」と迷惑がられるかもしれせんが、ど忘れ防止のため時々会話をすることをおすすめします。
また、「脳トレ」も意味記憶の忘却防止に役立つといわれていますので、気になる方は試してみてください。
【参考】河野和彦/監修『認知症の事典』(成美堂出版 2016年)
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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