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アルコールとうつ病 : 悪化していく酒癖
このようにアルコール依存の傾向がある人の「尻ぬぐい」をする行為は、「イネーブリング」といって依存症を悪化させることが指摘されています。しかし、当時Sさんの妻はそのことを知りませんでした。また、Sさんの妻を悩ませたのは、Sさんの飲酒の「尻ぬぐい」をさせられることだけではありませんでした。
Sさんはもともと酒好きでしたが、どちらかといえば陽気な酔い方で、ときに調子にのりすぎてハメをはずすことはあっても、暴力や暴言とは無縁の酒癖でした。
しかし、会社での配置換えで営業のリーダー職についたころから、Sさんは酒を飲むと、妻に暴言を吐いたり、突然泣き出したりするようになり、たまに外でお酒を飲んだ際などは、通行人に絡んだり、道路に寝転がってわめいたりといったトラブルも起こすようになっていたのです。
アルコールとうつ病 : 翌朝にはひたすら謝る
しかし、翌朝になって酔いが醒めると、Sさんはきまって「すまない」といいながら妻にひたすら頭を下げます。しおらしく謝りつづけるその姿に、昨晩酔っぱらって泣きわめいていた人の面影は見当たりません。また、このころになるとSさんは深酒をした際に記憶をなくすことも頻繁になり、翌朝になって自分の飲酒時の行動を妻から聞かされて真っ青になるということもしばしばでした。
Sさんは30代前半とまだ若く、体にはこれといった大きな不調は感じていませんでしたが、「酒を飲んだときの興奮状態」と「シラフで気持ちが沈んでいる状態」という急激なアップダウンを繰り返すうちに、Sさんの精神は日に日に病んでいったようです。
やがて、Sさんは会社に行けないばかりか、家からもほとんど外へ出ることができなくなり、5年勤めた会社を退職することになったのでした。
(次回に続く)
※本文は実話をもとに脚色を交えて構成しています。実在の人物・団体とはいっさい関係がありません。
<執筆者プロフィール>
井澤佑治(いざわ・ゆうじ)コラムニスト
舞踏家/ダンサーとしての国内外での活動を経て、健康法・身体技法の研究、高齢者への体操指導、さまざまな障がいや精神疾患を持つ人を対象としたセラピー、発達障害児の療育、LGBTの支援などに携わる。
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