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隠れアルコール依存 と家庭:「イネーブリング」の問題
さらに、Sさんの妻の行動に、共依存に多いといわれる「イネーブリング」が目立つようになりました。イネーブリングとは、「世話を焼くことでかえって相手の依存症を悪化させる行為」のことですが、Sさんの妻は「Sさんの酒癖で困っている」にもかかわらず、Sさんのためにお酒を買っておいたり、Sさんが落ちこんでいるときに晩酌を勧めたりといった行動をしてしまうのでした。
その結果、泥酔したSさんは妻に暴言を吐いたり、物を投げたりするようなトラブルを起こすのですが、ごくまれにSさんが以前のように上機嫌で酔っぱらう日もありました。
また、泥酔したSさんはそのうちにイビキをかいて眠ってしまうのがいつものコースです。こうした経験から、Sさんの妻は「お酒を飲めば上機嫌になるかも」「早くお酒を飲んで眠ってほしい」という思いもあって、Sさんにお酒を勧めてしまうのでした。
隠れアルコール依存 と認識:それでも「依存症ではない」と思っている
自分の意志では毎日の深酒がやめられず、酔うと暴言や暴力といったトラブルを頻繁に起こすようになったSさんでしたが、このときはまだ、自分が「うつ」や「アルコール依存」であるとは夢にも思っていませんでした。
なぜなら、「うつ」のような症状は会社を辞めたことでいったんは落ちついていましたし、気分がふさぎこんでいたとしても、お酒を飲むことでまぎらわすことができると思っていたからです。また、アルコール依存に関しても、朝からお酒を飲んでいるわけではなく、Sさん自身は「お酒はいつでもやめられる」と考えているようでした。
しかし、こうした「自分でコントロールできる」という過信が「うつ」やアルコール依存に対する気づきを遅らせることになり、Sさんは症状をますます悪化させることになってしまうのでした。
(次回に続く)
※本文は実話をもとに脚色を交えて構成しています。実在の人物・団体とはいっさい関係がありません。
<執筆者プロフィール>
井澤佑治(いざわ・ゆうじ)コラムニスト
舞踏家/ダンサーとしての国内外での活動を経て、健康法・身体技法の研究、高齢者への体操指導、さまざまな障がいや精神疾患を持つ人を対象としたセラピー、発達障害児の療育、LGBTの支援などに携わる。
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