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取材:斉藤雅幸(Mocosuku編集部)
監修:名古屋大学大学院医学系研究科教授 室原豊明 (循環器内科学)
米国糖尿病学会は、2型糖尿病治療薬に関する大規模臨床試験※1の結果を発表しました。これ受け、MSD株式会社は2015年7月10日(金)、「大規模臨床試験『TECOS』と糖尿病治療における意義」と題した記者発表を行いました。名古屋大学大学院 医学系研究科 循環器内科学の室原豊明教授は循環器内科の視点から同試験の糖尿病治療における意義について講演を行いました。
室原教授は次のように話しています。
「シタグリプチンという薬は血糖値を下げるために使う飲み薬です。このDPP4阻害剤という薬剤は、日本では約500万人の患者さんに処方されています。今回の大規模臨床試験は、DPP4阻害剤の1つであるシタグリプチンを使用した際の心疾患リスクを判定するものです。結果は、プラセボ群に対し『非劣性』となっています」
『非劣性』とは、非投与群に比べて劣っていないということです。この結果にどのような意味があるのかについては、少し補足が必要になるでしょう。
心血管系合併症のリスクが高い2型糖尿病
糖尿病の代表的な合併症である網膜症、腎症、神経障害は「三大合併症」といわれています。いずれも毛細血管の病変に由来する病態で、血管障害の中でも「細小血管障害」に分類されます。
一方、動脈硬化による心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症は「大血管障害」に分類されます。糖尿病の合併症というと、一般的には三大合併症について語られることが多いと思います。しかし、とりわけ心筋梗塞をはじめとする重篤な心疾患は、発症すれば命に関わるものであり、糖尿病の患者さんはそうでない人の2~3倍の心疾患リスクを抱えているといわれています。
さらに、アメリカである時期に使われていた血糖降下薬が、心疾患リスクを高めることが明らかになり、以後、新しい血糖降下薬の承認を得るには、血糖を下げる効果とは独立して、「心疾患リスクを高めないこと」の証明が必要になりました。
なお、TECOSの共同責任者でオックスフォード大学糖尿病医学教授、糖尿病治験ユニット長のRury Holman氏は次のように話しています。「2型糖尿病患者さんには血糖値をコントロールするために血糖降下薬が必要です。2型糖尿病の患者さんは心血管系合併症のリスクが高いため、血糖降下薬の心血管系に対する安全性を理解しておくことが重要です。TECOSの結果からシタグリプチンが心血管疾患のリスクの高いさまざまな2型糖尿病の患者さんにおいて、心血管イベントのリスクを増加させないことが示されました」
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