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大学院生の研究から
南カリフォルニア大学の大学院生マシュー・サックスさんは、音楽好きの人を被験者に“心揺さぶられる音楽”を聞かせて、ブルッと寒気を感じた(=感動)人とそうでない人のグループに分けて、それぞれの脳をスキャンしてみました。
その結果、ブルッときた人たちは、そうでない人たちと比べると、脳の聴覚を司る部分と感情を司る部分とをつなぐ神経線維が多いことを発見しました。
また、カナダ・マギル大学のロバート・ザットレー氏(神経学者)も、人間は音楽を聴くと、「聴覚系」と「感情系」、さらには、欲求が満たされると活性化して快感を覚える「報酬系」の3者が、結びつくという研究成果を発表しているそうです。
以上の研究から推察されることは、脳の中で、感覚系や感情系や報酬系といったところの神経の結びつきが強くなると、美しい芸術作品、音楽、書物、人の行為や話などを聞いたり見たり読んだりすることで、鳥肌が立つような感動を経験する傾向が強くなるかもしれません。
感動の脳科学
神経学者のアントニオ・ダマシオ医師は感動について、以下の通りに述べています。
「脳が全力で今経験していることを記録しようとしている。生きる指針を痕跡として残そうとしている。そのプロセスに感動がある」(参考:アントニオ・ダマシオ著『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』田中 三彦翻訳、ダイヤモンド社、2005.)
感動は人間にとって、そこにある情報に脳全体が全力で向き合っている状態を指していることが強調されています。
つまり、感動を経験しているとき、「寒さ」や「恐怖」と同じように、脳は強い刺激を受けているといえそうです。
なぜ感動すると鳥肌が立つのかは、寒さや恐怖のように、まだ科学的には解明されていない現象だといえます。
心揺さぶられる情報は大脳で「感動」として受け取られ、さらにスリリングな感覚として脳に伝わることによって、交感神経をとおして鳥肌を引き起こすのではないかと推測することはできるのですが・・・。
今後の解明が大いに待たれます。
【参考】
・デジタル国語辞典 大辞泉
・桑木共之・黒澤美枝子監修『トートラ人体の構造と機能』第4版(原書第13版)、丸善出版、2016.
・アントニオ・R・ダマシオ著『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』田中 三彦翻訳、ダイヤモンド社、2005
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお・かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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