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最悪の選択は復讐を怖れての行動?
ここで、もう一つの生殖に関わる本能が発動します。
社会的ランキングがより上位のほうが配偶者獲得に有利という原則です。
特に、男性は配偶者獲得競争が激しいので、配偶者防衛だけでなく、社会の中でより優位に立ちたい、より上位に上りたいという気持ちが強く出ます。
大学院生の場合は、法曹というランキングでは圧倒的に不利です。
そこで、競争に勝つには、「別のランキング」で優位に立とうと考えます。
ここまでは、人の本能としてはギリギリあり得るかもしれません。
しかし、彼は禁断の方法を選んでしまいました。
格闘家やアスリートは、一般人よりも体力面で圧倒的に有利です。
元ボクサーである彼は、被害者弁護士を力ずくで打ちのめすという禁じ手を使って自分の優位性を見せつけたのです。法曹を目指す身という立場も忘れて⋯⋯。
問題はその後です。
一般的には、相手が強大でればあるほど復讐が怖くなります。
復讐を受けないためには、自分が優位なうちに徹底的にせん滅するほかありません。
それが、大学院生の場合は性器の切断という凶行につながったと考えられます。
命までは取らなかったのは、男性としての優位性さえ示せればいい、という大学院生の最後の良心が働いたのかもしれません。
とはいえ、被害弁護士の男性としての機能はまさにせん滅されたと言えるでしょう。
復讐とメンタルケア …この事件の持つ意味
生殖に関わる本能は、時に男性を暴力的に導きます。
しかし、この事件でこの加害者が禁断の選択をしてしまったことは、本能だけでは説明できません。
加害者の精神鑑定を含めて、多面的に事件の背景を探ることが次の事件の抑止力になるでしょう。
<執筆者プロフィール>
杉山 崇
神奈川大学人間科学部/大学院人間科学研究科 教授
心理相談センター所長・教育支援センター副所長
臨床心理士・一級キャリアコンサルティング技能士
公益社団法人日本心理学会代議員
主な著書
好評発売中『入門!産業社会心理学』(北樹出版)
2015年9月『読むだけで、人づきあいがうまくなる(仮)』(サンマーク出版)発売予定。
公式サイトはこちら⇒ http://www.sugys-lab.com/
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